染色補正一級技能士の仕事
生地と対話をしながら
着物のしみ抜きは、洋服とは生地や染料が異なるためしみ抜き以外の高い技術が要求されます。
まず着物全体を眺めシミや汚れ、生地の状況を確認します。シミの性質を見極め、シミの成分にあった薬品を使用します。このとき生地が出来るだけ傷まないように優しく、生地と対話をしながら作業を進めます。
しかし、どんなに細心の注意を払ってしみ抜きをしても生地の色も一緒に抜けることが多いのです。抜けてしまった部分を元の色と全く同じになるように部分染色(染色補正)して作業を完了します。
着物のしみ抜きの出来を左右する重要な工程です。
染色補正とは
着物のお手入れ等で色が抜けてしまった部分を周りの色に合わせ、部分的に染め直すことです。
マルヤ店主も染色補正一級技能士の資格を有します。
染色補正技能士の技能は昭和46年に労働省から認定された染み抜きなどの補正技能の唯一の国家資格で技能級として1級と2級に分かれています。
2級技能士の受験資格は実務経験2年以上、1級技能士経験が7年以上あるいは2級合格後の実務経験2年以上が必要となります。
しみ抜き加工の料金について
しみ抜き加工の料金はシミの数や大きさだけでは決まりません。シミの原因や、シミが付いてからの経過時間、着物の痛み具合や、色柄など多くの要因が組み合わさったものとなるため現物を見ないと判断がつきにくいのです。1箇所に付きいくら、大きさでいくらと表示できずに大変申し訳無いですが、少しでも目安になればと思い下記にしみ抜きの参考例を掲載しました。
しみ抜き加工例 ①
縁に濃く付いたシミのお手入れ作業
当店お勧めの「しみ抜き・丸洗い」加工を施して画像のしみ抜きを含めて 8,000円~9,000円(税別)
画像のシミ抜きのみであれば 2,000円~3,000円(税別)のしみ抜き料金となります。
上記のしみ抜きに係る作業
- まず、着物の洗い場で洗濯機器を使い、丸洗いを行い全体の汚れとシミ部分の油性分を一緒に洗い落とします。
- その着物を乾燥室で乾燥後、しみ抜き部屋にて、卓上で指定箇所や目立つシミ部分のゆすぎ出しを致します。
- ゆすぎ出し後、シミの状態を診て、少しタンパク質の硬い部分が残りましたので、硬さを取るための酵素(タンパク分解酵素)処理を致しました。
- 酵素処理で硬さが無くなったのを確認して、調合したシミ抜き剤を付け時間を置きます。(シミによって、1カ所、1時間から1日かかります。)
- しみ抜き剤を付けるたびにシミが薄くなりますので、何処まで綺麗に抜くか判断します。後、生地のしみ抜き部分に付いているしみ抜き剤を綺麗に濯ぎ出します。(注※ここで、綺麗に生地からしみ抜き剤をゆすぎ出さないと、後日時間が経ってその部分が変色したり、薬品焼け等を起こします。)
- シミ抜きと一緒にしみ周りの生地色が薄くなったり変色したりしますので、京都で培った部分染色補正(色直し)を致します。
- シミ前後と生地の状態を診て、仕上げと致しました。。
しみ抜き加工例 ②
紬生地のしみ抜き
当店お勧めの「しみ抜き・丸洗い」加工、丸洗いと5~6か所の同じようなしみ抜きをして約8,000円~9,000円(税別)
画像しみ抜きのみであれば約1,500円~2,000円(税別)
上記のしみ抜きに係る作業
- しみ抜きする表の生地を大まかに摘まみ、シミの部分を中心にゆすぎ出しを致します。
- 大島紬の生地は、薬品で色が変わりやすい生地ですので、シミが付いた部分で、一度軽く薬品を付けてテスト抜きを致します。
- テストでは、色変わりやシミの抜け具合、シミの周りの柄の変色等々注視致します。結果良ければ、すぐにしみ抜き剤を付け時間(1度に付き1時間から1日)をおいてシミの抜け具合を観察致します。
- シミの抜け具合を診て、数度のしみ抜き剤を付け直し又、時間を置きます。
- シミが抜けたのを確認して、丁寧に生地から付けた薬品などをゆすぎ落します。
- しみ抜きと一緒にしみ周りも薄くなりますので、部分染色(染色補正)をして、仕上げと致しました。
しみ抜き加工例 ③
男の子一つ身の全体カビ黄変のしみ抜き
丸洗いしみ抜き加工で約¥15,000から¥20,000(税別)
この商品のご依頼では、しみの特性(カビが原因の黄変)と範囲、場所などからしみ抜きだけを優先的に行うと生地を痛めてしまう恐れがあるため、生地の状況を見ながら最新の注意を払っての作業が必要となります。現状から100%のしみ抜きを行うことは、着物のために良くないと判断(やり過ぎると、生地を傷める事があるため。)80%から90%の仕上がりを目標に進めました。
上記のしみ抜きに係る作業
- 全体に画像のシミ(カビの黄変)が付いていましたので、まず、テスト部分を決めて、ゆすぎ出しを致します。
- ゆすぎ出したシミのテスト部分にしみ抜き剤を付け、シミの抜け具合を診ます。
- テスト結果が良ければ、大きく広げてしみ抜き剤を付けて経過を診ます。
- 綺麗になれば、別のところにしみ抜きを付けて、又経過を診ます。
- 繰り返し後、生地の状態としみ抜きの状態を観察し、全体の抜け具合を判断致します。
- 全体にシミが薄くなったら、仕上げの全体ゆすぎ出しを十分な水を使い作業致します。
- 染み抜き剤で薄くなった生地の色を、部分染色致し仕上げに移りました。
- 商品の状態を考えて、無理してやり過ぎないことを意識して加工致しました。
しみ抜き加工例 ④
柄に掛かるしみ抜き
柄に掛かるシミは、元柄を傷めない事
当店お勧めの「しみ抜き・丸洗い」加工を施して画像のしみ抜きを含めて 8,000円~9,000円(税別)
画像のしみ抜きのみであれば 1,500円~2,000円(税別)
- 画像の着物柄は、ゆすぎ出しする時に、柄が薄くなりますので注意が特に必要です。
- シミ部分をつまんでシミの硬さや生地の強さを指先で感じ取ります。硬ければ、*酵素処理が必要になります。
- 硬さを感じ取りませんでしたので、
- 石鹸系統の薬品を付けてシミ部分のゆすぎ出しを致します。
- 状態を確認しながら、漂白系の染み抜き薬品を付けてシミの抜け具合(約半日)を診ます。
- 乾いたらぬり、乾いたらぬり、2~3度シミ部分に薬品付けを繰り返します。
- しみ抜き剤で抜けた状態を診ながら、少し薄くなった柄と元シミの部分を部分染色補正を致します。
*酵素処理とは⇒シミ部分に含まれるタンパク系統のしみを取るために、タンパク分解酵素を使って加工致します。
しみ抜き加工例 ⑤
薄く広がりのあるシミのしみ抜き
薄く広がりのあるシミの染み抜き
画像のしみのみであれば 2,000円~3,000円(税別)
- 眺めて、摘まんで、透かして生地の状態を調べます。
- まず、シミの部分だけのゆすぎ出しを致します。
- ゆすぎ出しで薄くなったシミ部分に、しみ抜き薬品を塗布します。
- 広がりのあるシミの薄い部分から綺麗になりますので、状態を診て、より中心の部分に再度付けます。
- さらに中の濃い部分に付けます。一応に薄くなったところでシミ部分をゆすぎ出します。
- この時生地から薬品を完全にタオルなどにゆすぎ出して残留薬品を取り除くのが大事になります。(後々、薬品焼け等の変色を無くすため。)
- 染み抜き薬品でシミとその周りも薄くなりますので、薄く抜けた部分が周りと同じになるように染料を調整して色直し(染色補正)を致します。
しみ抜き加工例 ⑥
濃く付いたシミを利用する
画像のしみのみであれば 2,000円~3,000円(税別)
濃く付いたシミは、半分薄くしてそれを利用する
- まず、キズや破れ裂け等無いか、生地の状態を調べます。
- シミの部分のゆすぎ出しを行い、しみ抜き薬品を付けます。
- 生地の変色具合とシミの抜け具合を確認しながら、何度か繰り返し薬品を付けます。
- シミの色と生地の色が同系色ですので、シミが半分抜けたところでやめます。シミを真っ白に抜く事は、逆に出来具合が悪くなりますので、シミの残りを利用する事と生地の色を考慮して色直し(染色補正)を行い、少々シミ跡が薄く見えますが、仕上げと致しました。